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BCMの構築、BCPの策定へのアドバイス

BCP月次オープン講座(6回連続開催)について
  第1回シリーズが終了しました。ご参加ありがとうございました。

 A.開催概要

  1) 開催日6月7日(金)、7月5日(金)、(8月はなし)、9月6日(金)、10月4日(金)、
       11月1日(金)、12月6日(金)
  2) 場所: 東北大学 災害科学国際研究所 内
  3) 内容とテキスト: BCPの策定・運用の基本を6回に分けて解説しました。
             各回の主なテキストは次の通りです。テキストの開封パスワードを
             ご希望の方は、
             丸谷研究室 maruya@irides.tohoku.ac.jp  へご連絡ください。

     ① BCPとは何か(6月7日) テキスト:月次第1回資料1
     ②被害想定(7月5日) テキスト:月次第2回資料1
     ③事業影響度分析(9月6日) テキスト:月次第3回資料1
     ④事業継続戦略(10月4日) テキスト:月次第4回資料1
     ⑤事前対策(11月1日) テキスト:月次第5回資料1
     ⑥訓練・維持管理(12月6日) テキスト:月次第6回資料1  月次第6回資料2
  

 B.主催・開催趣旨
   主催者:東北大学災害科学国際研究所 事業継続マネジメント連携研究センター(事務局:
  丸谷研究室)です。
   開催趣旨:東日本大震災の被災地の仙台市、宮城県ですが、BCPの普及や改善がさほど進ん
  でいません。そこで、BCPの基本的な事項を定期的に学べる場を設け、状況の改善に少しでも
  貢献したいと考えています。

 

 

 

 

BCMの構築、BCPの策定へのアドバイス 説明

(1) BCPに盛り込むべき事項

BCPに盛り込むべき基本的な内容は、行政でも民間企業でもほぼ共通である。国際的にみても同様である。具体的には、以下のとおり大きく4つの内容となる。

第1に、災害などの発生直後に発動する「緊急対応」である。避難誘導、負傷者の救助、消火や二次災害の防止、安否確認、指揮命令系統の確保、代理への権限委譲、重要な関係先との連絡手段の確保などで、災害などの発生時に、いかに迅速かつ的確に対応するかという面の計画文書である。担当部署ごとのマニュアルの形で詳細を定めることが多い。

第2に、災害などの発生前に行う「事前の備え」を着実に実施していく事前対策計画である。BCPでは、重要業務に不可欠なヒト、モノ、カネ、情報などのリソースがそろわなければ早期復旧はできない点を重視し、各リソースの被害を抑制する戦略や各リソースに代替確保を図る戦略をとるが、このような被害抑制や代替確保は平常時から着実に行っていく必要がある。

第3に、BCPの維持管理、訓練、継続的な改善の計画である。人事異動、取引先・契約先の変更、自らの事業・業務の変更などにより第1にあげた対応計画の前提条件が変わることから、維持管理は不可欠である。また、第2の事前対策計画の進捗により、BCPの内容も変わってくる。そこで、これら定期的かつ確実に対応できるような計画が必要となる。さらに、実際に災害にあうことはめったにないことから、定期的な訓練によりBCPの有効性の検証と改善を行うことが求められ、訓練計画も必要となる。

第4に、BCPを策定するにあたって行った調査、分析の内容や、決定事項の根拠とした資料をまとめておく必要がある。これらは、将来のBCPの継続的な改善に当たり、担当者の人事異動があっても円滑に行うために不可欠なものである。

これらの中で、現在の行政のBCPで弱いのは、第3の維持管理、訓練、継続的な改善の計画の全般と、第1、第2にわたっての、代替戦略に基づく計画であるというのが、筆者の見解である。

(2) BCM、BCPの留意点

  1. 現地復旧と代替拠点の活用

    BCPにおいて代替拠点の確保が必要であることは以上で述べた通りであるが、災害等にあっても、平常時の拠点で業務を行えるのであれば、もちろんそれに越したことはない。そこで、なるべく被害を発生させない対策を現状の拠点に実施することも、事業継続のための重要な対策である。

    実際、代替拠点に移ることが必要になる災害よりも、現地復旧ができる災害にあう可能性の方が相当高いので、代替拠点を想定する一方、被害が軽い場合に現地での復旧を早期に実現するための事前の備えや災害直後の体制づくりも重要である。

    現地復旧を早める事前対策とは、地震であれば建物や主要設備の耐震性の確保や耐震補強、家具などの耐震固定であり、風水害であれば水没の危険がある地下や低層部分の施設・設備を上部に移す対策となり、火災であれば、耐火性能の向上であるなど、危機事象の種類ごとに対策が異なるのが特徴であり、これも幅広い備えをすることは容易ではない。

  2. 代替拠点の場所の選定

    代替拠点は、同じ災害で同時に被害を受けないよう、地方公共団体においては、本来の庁舎拠点からある程度以上の離れた場所に確保することが基本である。しかし、行政組織の場合、本来の拠点で業務をしている職員と同じ業務をしている出先機関の職員がいない場合が多いので、本庁舎から代替拠点への人の移動が可能であることが求められる傾向が高い。職員が発災直後には、鉄道はもとより、自動車やバイクによる移動も制約を受ける可能性が高いので、遠ければ遠いほど良いというわけでもない。

    そこで、歩いてでも何とか行ける範囲内に、良い立地の代替拠点が探せれば、そこをまず一ヵ所確保し、さらにより遠い、同時被災の可能性のより低いところにもう一カ所確保することができれば、より良いことになろう。

    これらの点は民間企業についてもおおむね同様である。

  3. 代替拠点の確保の業務継続面での効果

    代替拠点を確保しておく必要性が強調される理由の一つは、代替拠点を確保すれば、地震に限らず、火災、テロなどの本庁舎に物理的な被害を伴う危機事象においてほぼ共通に有効であり、新型インフルエンザなどでも有効活用できる点である。

    「強毒性」の新型インフルエンザで説明すると、組織内で感染者が発生した場合に周りの勤務者も自宅待機にしないと感染の抑え込みが困難であるため、複数の班別体制が業務継続の必要性の高い部署には必要とされる。代替拠点はそのためにも活用できることになる。

    さらに、東日本大震災の教訓は「想定外」を起こさないことである。同じ地震や津波などの災害でも、今回のように想定していた被害レベルを超えると、平常時の拠点の耐震性、耐水性などの守りを固めていても、現地復旧が不可能になってしまう。したがって、同時に被害を受けない代替拠点を確保していくことで、「重要拠点が使えない事態」をまとめて想定しておくことができるわけである。

    なお、代替拠点の候補は決めてはいるが、すべての職員・社員が移れない大きさであることに悩んでいる例もみられる。しかし、どこも事情は同じであり、代替拠点にはトップや上級幹部と危機管理部門、各部局の幹部等が入り、各部局は使用しやすい別の出先機関などに代替拠点を構える分散型を考えるのが現実的と考えられる。逆に、十分な広さもなく、使用できる機器も乏しいところに職員・社員が無理に集合することは有効ではないであろう。

  4. 代替拠点の開示の有効性

    BCPを持つ地方公共団体で、BCPに代替拠点を示していない場合も多い。中には、代替拠点は決めているがBCPに明示していない例もある。いずれも、代替拠点を発表するには一定の整備ができている必要があるが、整備が進まず予算も確保できていないという事情がありそうである。しかし、代替拠点の場所を組織内外に周知しておくことは、施設整備が不十分でも意味がある。本庁舎がいざ使えなくなった場合、どこに集合して業務に当たるのかを周知するのは、災害直後の通信途絶や参集困難の中ではかなりの時間を要し、時間の浪費の原因となるとみられるからである。そこで、代替拠点の場所は明確に決め早期に関係者に周知し、設備整備はできなくても、拠点内の組織配置を頭上で決めておくなど費用のかからない準備を進めていくことが提案できると考えられる。

    民間企業の場合でも、代替拠点の位置を取引先や重要なステークホルダーに周知しておくことによって、事業継続の可能性を高めることができるであろう。

  5. 代替の人材の確保

    人材の面での代替確保の戦略としては、組織のトップ、各部門の責任者やキーパーソンが不在となる場合に備えて、少なくとも2人以上の代理を明確に定めておき、これらの代理に判断権限の移譲も明確にしておくことが重要となる。この点は、例えば、東日本大震災の津波被災エリアの市町村の被災の実態から、切実な必要性が再認識された。

    さらに、災害時に不可欠となる業務で現状一人しかできないものについては、複数の人が担当できるよう計画的に業務の習熟を図るか、あるいは代理者が円滑にその業務ができるような分かりやすいマニュアルの整備を行うなどが必要となろう。お互い別の仕事を複数の者が行えるようにするクロス・トレーニングを行う方法もある。

    また、人材の確保は発災直後では、職員・社員の参集可能性とも直接関わってくる。夜間・休日に災害などが発生した場合の緊急参集を想定して、人事異動の時期には職員・社員の住居の位置を考慮して新しい参集可能人員を具体的に把握し直していくことが、BCPの維持管理の基本的な事項となる。

  6. 情報、書類などのバックアップ

    企業の場合、社内の契約、取引、顧客、経理等の重要な情報はバックアップを定期的に行い、また、重要な書類・図面などは複写を取っておき、これらを同じ災害で被災しない程度に距離の離れた別の場所に保管しておくことが必要である。

    地方公共団体については、東日本大震災では、住民基本台帳等の被災者対応にも重要なデータが一時喪失状態になった例がかなり見られ、バックアップの必要性の認識が著しく高まった。さらに、情報システムへの依存度が高い業務については、そのシステム自体のバックアップも必要となる。

    地方公共団体のICT部門のBCPは、総務省がガイドラインを作りBCP策定を推進しており、現在その見直しの作業が継続している。現在のICT部門の職員にとって、本来の拠点にとどまって復旧する業務継続の対応はイメージしやすいが、大震災で見られたように、本庁舎が使用不能となり代替庁舎に移る場合には、どのような情報システムを用意すべきなのか自分たちだけでは想定しにくいので、危機管理・防災部局と連携して備えを進めることが期待される。また、このガイドラインは、民間企業にも参考になる。

  7. 代替調達先の確保

    民間企業にとって、代替調達先を確保できれば、サプライチェーンを通じた間接的な被害を会費するために大変有効であるのはいうまでもない。しかし、平常時から同じ物品・サービスの調達先を複数持つことは、一般に大量一括購入を行った方が安価に調達できることから、経費節減と非常時の供給の安定的確保が並び立たず、実際に判断は簡単ではない。しかし、平常時の有利性だけに目を向けるのでは、事業継続力を高めることは難しく、経営判断により、一定の取組みは必要であろう。

    行政組織においても、重要業務に不可欠な消耗品やサービスの調達先の企業が事業継続できなくなると、行政の仕事も滞る懸念が大きいことを十分認識しておく必要がある。卑近な例では、コピー機やプリンターの使用ができなくなるような事態である。これらの調達先の事業継続力を把握し、その向上を求めるとともに、代替の調達先も把握も求められる。

    また、事務機器などのサービス契約では、天変地異が発生した場合には供給義務が適用除外になっていることが多いので、注意が必要である。とはいえ、契約を災害時にも供給義務があるように変更するのは、平常時から災害対応要員を契約先が確保することが必要となるので、契約額が相当高くなり簡単ではない。

    したがって、調達先企業との連携を様々な形で深めることを基本に、それぞれの現場でのより良い判断を期待することになると思われる。

(3) 東日本大震災の教訓と対応

東日本大震災

東日本大震災では、広域的な地震被害、津波災害が生じたことから、例えば、津波は来ないと思われていた場所まで津波が押し寄せ、また、想定以上の津波高により建物、施設等が予想を超えた被害に見舞われた。そこで、BCPにおいて、従来の取り組みを見直すべき重要な教訓が得られた。

  1. 代替拠点の確保

    大震災では、地方公共団体の庁舎など、行政の庁舎の使用不要の例が相当数発生し、行政組織の平常時の拠点が被害を受けて使用できなくなることに備え、代替拠点を確保しておくことの必要性が明確になった。

    一方、民間企業においては、津波の被害や地震動の被害により、容易に現地で復旧できない甚大な被害を受けた場合においては、代替拠点の確保(自社内に限らず、連携企業の拠点を含めて)ができなければ事業継続が困難となる事態に直面した。

    表2のとおり、市町村の本庁舎で移転を要する被害を受けたのは13カ所、一部移転については15カ所あった。同表中( )内の数字は津波被害によるものの数であり、地震動など別の理由による使用不能の例も多かった。本庁舎の甚大な被害は、行政の業務スペースの喪失だけでなく、行政職員の被害や、電子情報や重要書類の喪失にも多くの場合につながったことも教訓である。

    県の庁舎についても、福島県庁の本庁舎の耐震性が不十分であったため、地震による被害で本庁舎への立ち入りができなくなり、隣接の施設で災害対応等の業務を行う事態となった。

    一方、民間企業においては、被災地の沿岸部で津波被害にあった企業をはじめ、多くの企業が自社の中心的な事業拠点を喪失した。

  2. 耐震性の有無にかかわらない代替拠点の必要性

    地方公共団体においては、現状、耐震性のない本庁舎を持つ都道府県や市町村も少なくないのが、残念ながら実態である。耐震補強や建直しの必要性は認識しているが、予算が確保できない例も多い。本庁舎に耐震性がなければ、代替拠点の確保が当然急がれる。

    表2 東日本大震災による市役所、町村役場の被害

    注:( )内の数字は本庁舎が津波による被災を受けた市町村。福島原発事故の影響による移転は含んでいない。
    出典:「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」第1回会合参考資料「被害に関するデータ等」より(内閣府調べ)

    民間企業についても、耐震性の確保が防災対策としても急務という認識は広がっているが、費用負担の面などが要因となって、思うように耐震化が進んでいないのが実態である。

    さらに、耐震性のある建物であっても、電気、情報通信、トイレ等の主要な設備や、電力、通信、上下水道などのライフラインが使用できなくなり、早期復旧のめどが立たない場合や、建物内や近隣で火災が発生した場合などには、その庁舎は使用できなくなる。
    したがって、地震災害を想定するだけでも、代替拠点の確保は、庁舎の耐震性の有無にかかわらず、どのような行政組織にとっても不可欠である。

  3. 津波災害における代替拠点

    現在、代替拠点の確保の検討を最も切迫感を持って進めている地域といえば、津波の被害が予測される地域内がその一つであろう。本年8月に政府の南海トラフの巨大地震による津波の詳細が発表され、津波被害が懸念される地域が相当広がるとともに、想定される津波高がかなり高くなった。筆者に対して具体的な代替拠点確保の助言要請も複数来ている状況である。

    太平洋沿岸部では、市町村の主な市街地の相当部分の水没が懸念されることとなり、行政組織としても、安全な代替拠点が確保できる地域が限られ、絶対に安全な代替拠点は隣接市町村に求めることも検討しなければならない例も見られる。したがって、これら地域のBCP策定には、国や県としても積極的な支援を行う必要性が感じられる。